落語弁護士の犯罪

第281号 落語弁護士の犯罪

落語は、楽しく聞いて笑うものですから、「犯罪」とはあまり関係ないですね。もっとも、円朝の真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)みたいな怪談物は、殺人事件なんかが盛り沢山です。金貸しの医者を、食い詰めた武士が殺す。その後の、お互いの子孫たちに続く因果話です。亡くなった桂歌丸師匠のライフワークでして、私も「豊志賀の死」なんて3回も聞きました。豊志賀は殺された医師の30過ぎの娘で、芸事の師匠をしていて、身持ちが固いということで人気があります。そんな豊志賀が、出入り業者の、10代の若者に夢中になる。お互いに知りませんが、この若者は、殺人犯である武士の息子なんですね。初めはおどおどしている若者が、段々と増長していく。初めはリードしていた豊志賀が、嫉妬に狂っていく。そうした愛憎のもつれから起こる殺人事件。こういうの、歌丸師匠、本当に上手かったなあと思うんです!

 

と、長々と書きましたけれど、落語でこんな深刻な犯罪は、怪談話以外はほとんどないですね。「出来心」なんて「住居侵入窃盗罪」の落語ですが、盗みに入る方も、入られる方も、ほのぼのしています。食い詰めて盗みに入って、いろいろ探したが、盗るものなど何もない。住民が帰ってきたので、とっさに身を隠す。家を荒らされているのを見た住人は、家賃を盗まれたことにしようと考える話です。「裏は花色木綿。暖ったかくて寝冷えをしない」なんて、落語ファンの人なら、頭にこびりついているフレーズです。この話は、落語ということですから、笑って終わりですが、現代社会でこのような事件が起きたら、どちらも厳しく処罰されそうです。「高津の壺」なんて落語もありますが、これなんてまるっきり詐欺罪です。壺を買うときに、まず小さい壺を買う。やっぱり大きい方が良いと、買った壺を返還して、ごちゃごちゃする中で、壺をだまし取るという話です。自分が壷屋さんだと思うと、とてもじゃないけど笑えません。こういった詐欺の話、落語には多いですよね。「時そば」は流石にバカバカしくて、私でも笑ってしまいますが、詐欺であることには代わりないのです。お金を払うときに、銭を一枚二枚と数えながら渡す途中で「今、何時で?」と質問します。そこで「10時で」なんて答えると、11、12とそこから数えるという話ですね。いずれにしても、落語の世界では、好き勝手に振舞う人に甘い気がします。それで迷惑を受けている人たちを笑い飛ばすんです。「長屋の引越し」なんて落語では、三軒長屋の真ん中に住む人が、両隣の騒音に迷惑しています。何とか出て行ってもらおうと頑張った結果、両隣とも引越しをすることになった。喜んでお餞別を渡したら、両隣がそれぞれ相手のところに引越すことにしたという落ちです。こんな落語では、騒音やごみ屋敷に悩んでいる現代人は、とてもじゃないけど笑えないです。先日、飲食店に備えられている箸の束を、口にくわえた写真をSNSに投稿した人が逮捕されたなんてニュースを見ました。現代の感覚なら、当然の処分と思います。しかし落語には、お祭りで、壺にはいった水飴を、つばのついた棒で何度も嘗め回す子供の話があります。私は聴いていて、かなり嫌な気分になったのです。

 

落語の世界の、江戸や明治の人たちの犯罪や迷惑行為に関する感覚と、現代人のそれとは、やはり大きな違いがあるように思います。それなのに、刑法の基本的な内容は、明治の時代に出来たままのものです。現代人の感覚では、「こんなもの罪にする必要あるの?」ということや、「なんでこれが罪にならないのか!」というものまであります。時代に合わせた法律の改正は、難しい問題ですが、必要だと思うのです。

 

弁護士より一言

隣の広い部屋が空いたので、オフィスを移転しました。なんだか「長屋の引越し」みたいです。。。
12月から弁護士が2名入ってきますので、大変な時期にもかかわらず、少し広いところに移りました。コロナの状況を見ながら、近いうちに事務所での少人数セミナーを開きたいと思っています。お知らせしますので、是非ともご参加いただければ嬉しいです。

(2020年11月16日 大山滋郎)

 

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