弁護士の12か月
第283号 弁護士の12か月
園芸家の12か月」は、チェコのSF作家、カレル・チャペックの本です。チャペックは、「ロボット」という言葉を作った人としても有名です。ロボットたちが人間達に反逆するという話を、100年も前に書いたのですから、大したものだと思います。そんなチャペック先生が、晩年に夢中になったのが園芸です。先生によると、若いうちは、花壇を耕す代わりに、女の子の尻を追いかけ、自分の野心を満たし、他人の成果を横取りすることを考えているそうです。そんな人が年を取ると、園芸に夢中になっていく。「私のバラをぜひ見てください」なんて、他人に自慢したくなるんですね。しかし、せっかく来てくれた人に、専門家にしか分からないような話を延々としちゃうのも、「園芸家」の特質のようです。でもこういうの、「勉強好き」の弁護士の場合よくあるんです。お客様に新しい判例なんかを説明し始めると、話しがあっちに飛びこっちに飛び、何が実務に影響を与えることなのか、最後まで分からない「説明」をしてしまうなんて、よくあることです。逆に言うと、そのくらいにならないと、「園芸家」とも「法律家」ともいえないのかもしれません。
「園芸家の12か月」では、チャペック先生が訳の分からない決めつけがたくさん出てきて、この辺も人気の秘密に思えます。「サボテンは神秘的な花だ。バラは美しいが神秘的ではない」なんて、有名な決めつけです。わかったようなわかんないような気がします。自分の庭の園芸だけではなく、チャペックは町中の植物にも興味を持っています。停車場の植物や、肉屋さんの植物、レストランの植物等、どれも面白いんだそうですが、何故か「パン屋や金物屋では植物が育たない」なんて指摘がありました。バカバカしい決めつけですけど、なんとなく可笑しい。この本には文字通り、園芸家が、1年の各月に何を行うかが書かれているのですが、2月は最悪の月だそうです。2月は気まぐれで、温かくなったと見せて植物の芽を出させたところで、一気に寒くして叩き潰す。チャペックによりますと、うるう年のときに、こんな酷い2月に1日足すのは暴挙だそうです。うるう年には、5月を32日まで増やすべきだと主張されてました。
もっとも、チャペックは、こういった無茶な意見だけではなく、とても良いことも教えてくれます。園芸家たるもの、一番大切にしないといけないのは、植物ではなくて土だそうです。素晴らしい庭に招待されたら、まずはそこの土を調べるのが、正しい園芸家なんですね。毎年毎年、1年間を費やし、まずは土壌改良を行う。そして、今庭にあるものではなく、将来庭にあるものを見ていくそうです。これは、弁護士の仕事にも通じる、とても良いアドバイスに思えます。人目をひく「成果」よりも、それを生み出すための準備を大切にしていこうということですから。弁護士も、個々の事件で勝った負けたというよりも、地道に実力を付けるように努力を続けることはとても大切ですね。私も、耳が痛かったです。ところが、ここで終われば良い話なんですが、チャペック先生のお話はまだ続きます。毎日毎日土壌改良のことを考えて過ごし、いつの間にか12月になって、1年を振り返ったときに、「何かを忘れていた!」ことを思い出すそうです。「庭を眺めることだ。そんな暇がなかったのである」
弁護士も、法律業務を一生懸命やるのは大切ですが、お客様の顔を見ることを忘れてはいけないと、思いを新たにしたのです。ということで、今年1年間どうも有難うございました。来年も引き続き、宜しくお願い致します。
弁護士より一言
「土壌が大切なのは、園芸家と弁護士だけじゃないでしょう」と、妻に指摘されました。「子育て」にこそ、家庭という土壌がとても大切なんだそうです。そ、それはそうだと思います。。。私も家庭菜園のために土壌改良を頑張ろうと、元の土に腐葉土などを、どっさり入れ替えたうえに、さらに買ってきた肥料も沢山いれたんです。結果的には、野菜はちっとも育ちませんでした。肥料のやりすぎだそうです。子供達への肥料のやりすぎにも注意しようと思ったのです!
(2020年12月16日 大山滋郎)