弁護士の猫と犬
第302号 弁護士の猫と犬
世の中には、「猫派」と「犬派」の人がいるんだそうです。私なんかには、どちらも同じ「ペット」としか思えないんですが、そういう人たちからすると、猫と犬は全く違うものであり、同じに考えるなと怒られてしまうのです。ところが、この猫と犬が同じか、違うかの問題は、法律の世界でもあるのです。法律の入門書なんかで説明されています。
例えばお店に「犬は入店お断り」なんて書いてあったとします。この場合、犬がダメなのは分かりますが、猫はどうなのか書いてありません。犬は吠えたり噛みついたりするからダメだが、猫は大人しいからOKという考えもあります。一方、動物は不潔かもしれないから、犬がダメなら猫も当然ダメだという考えもありえます。法律で全てを規定することはできませんから、様々な場面で、猫と犬を同じに扱うのか、違って扱うのか、判断せざるを得ないわけですが、これがとても難しいのです。一般人から見たら、とても似た事例のように思えるのに、法的な結果は全く違ってくることもよくあります。例えば先日、徘徊老人が線路に立ち入り、電車に轢かれたなんて事件が、テレビで解説されていました。この場合、遺族は鉄道会社から、巨額な損害賠償を請求される恐れがあります。
一方、徘徊老人が高速道路に立ち入り、自動車に轢かれた場合は、賠償請求されるどころか、自動車保険から何千万円のお金が遺族に支払われます。電車と自動車で、何だってこんなに違ってくるんだろうと、不思議に思う人も多いのではないでしょうか。ただ、この辺はある意味法律家にとっては常識ともいえることです。猫(電車)と犬(自動車)は、この場合全く別物として扱われるということです。仮に私が徘徊老人になったときは、鉄道沿線から幹線道路の近くに引越すように、家族にはよく伝えておきたいと思うのです。(おいおい。。。)
刑法の中の犯罪でも、猫と犬の問題はあります。人を脅して物を奪うのは強盗罪ということで、重く処罰されています。同じように、人を脅して無理やり関係を持つのは強姦罪ですね。こちらも当然ですが、強盗と同じく重く罰せられます。猫(強盗)と犬(強姦)は、同じように扱われているわけです。一方、人をだまして物を取ると詐欺罪ということで処罰されますよね。
ところが、例えば「結婚する」と相手を騙して性的関係を持つ場合は、特に犯罪とされていません。一般の人の中には、こういう場合に「結婚詐欺」になると誤解している人も居ますが、そんなことありません。結婚詐欺というのは、結婚すると騙して財物等を取る犯罪です。性犯罪は近時非常に処罰が重くなっているのに、騙して行う場合は犯罪にもならない。この点に関しては、女性問題に熱心な弁護士達も、特におかしなことだと問題提起していませんが、私としては少し不思議な気もします。
話は変わりますが、少し前に、同性間の結婚を認めないのは憲法違反だなんて判決が出ました。私が学生だった頃には、考えられないような判断です。しかし同性間での結婚を認めるとなりますと、いったいどこまで結婚を認めないといけないのか気になります。
今の法律では、義理の親子関係にあった者は結婚できません。これなんか、同じように憲法違反になるようにも思えます。
一夫多妻や一妻多夫の場合も、当事者全員がそれでよいと言っているのに、国家が結婚を認めないのは憲法違反かもしれません。そこまで行きますと、実の親兄弟でも、結婚ができないのはおかしいという議論まで出てきそうです。そんな社会にはなって欲しくないですし、現実にそうなるとも思いません。しかし、猫が良いなら、犬は何故ダメなのかということは、常に問題となりえるのです。
弁護士より一言
英語でcats and dogsというのは、「暴風雨」という意味だと、遠い昔に英語の授業で習いました。犬と猫が集まると大騒ぎになるという説があるそうです。自宅の庭に、ノラ猫が遊びに来ます。たまにハクビシンとタヌキもやってきて、夜中に屋根の上で大騒ぎをしています。幸い犬は来ませんが、動物たちが集まると大騒ぎとなるのだと、実感しているのでした。
(2021年10月1日 大山 滋郎)