ギリシャ神話の刑罰

第314号 ギリシャ神話の刑罰

「教養とは何か?」という問題について、とても納得できる答えを聞きました。「様々なことを知っているのは物知り。知っている知識をひけらかさないよう、我慢できるのが教養」なんだそうです。み、耳が痛い。

 

そこで今回は、ギリシャ神話をひけらかしちゃいます! ギリシャ神話には、残酷な犯罪行為が沢山出てきます。一番酷いのは、目を潰し、舌を抜いたうえ、手首足首も切り落として、誰が犯人か、他人に伝えられないようにしたなんて犯罪がありました。そこで、この犯罪が仮に現在の日本で起きた場合、どういう刑罰が科されるかを考えてみました。ここまでのことをしたのだから、殺人罪にも匹敵する刑罰が当然だと思いますよね。

 

しかしながら、日本の刑法ではこれでも、ただの「傷害罪」ということになって、1月以上15年以下の懲役刑になるだけです。なんでこんなに刑罰が軽いんだろうと、昔から私は不思議に思っていたのですが、私以外の法律家で、特に問題視している人も居ませんし、法律家以外の人でも、特に気にしていないようです。「死刑廃止」については、そんなに刑を軽くするのはとんでもないと怒る人が沢山いるだけに、少し不思議な気がします。傷害罪について、あまり問題にならないのは、現実問題としてそれほど残酷な事件が、現代日本で起こっていないからかもしれません。ギリシャ神話の犯罪行為といえば、タンタロス一族が有名です。神を騙そうとして罰を受けた一族ですね。

 

例えば、兄弟で殺し合いを始めるのですが、兄から弟に、仲直りの食事会の申し入れがあります。やってきた弟に、美味しいお肉があると言ってご馳走します。弟が食べ終わった後に、その肉というのは弟の子供達だったと種明かしをするという、鬼畜の所業です。というわけで、子供の死亡には関与していないが、その死体を親に食べさせる行為が、現代日本の刑法ではどう処罰されているか、考えてみます。これに当てはまる犯罪類型は無いんですね。せいぜい、「死体損壊罪」ということで、3年以下の懲役刑になるだけです。常識的に考えて、軽すぎると思うのは、私だけではないはずです。単なる「損壊」とは違いますから。その一方、日本の刑法には、「そんな犯罪誰がやるんだよ?」「わざわざ、特別に規定する必要あるのかよ?」というような犯罪も数多く規定されています。飲料水に毒を入れる罪とか、それこそ「わざわざ特別な罪にしないでも、傷害罪や殺人(未遂)で十分じゃないのか?」なんて気がします。

 

ただ、キレイな水が今より重視されていた時代には、これを特別な犯罪とする必要があったのでしょう。今でも、サリンを使用した犯罪は特別の規定があります。オウム真理教の事件が忘れられたころには、「なんでサリンだけ特別なんだよ?」なんて思う人が出て来るのかもしれません。ギリシャ神話に戻りますと、順番に王位に就く約束をした兄弟の話があります。ところが、先に王位に就いた兄が、約束を破ってしまいます。怒った弟が、外国の軍隊と共に、国に攻め入ってくる話です。アイスキュロス大先生の、「テーバイ攻めの七将」です。(と、教養がないのでひけらかしちゃいます。。。)
外国と結託して、日本に武力行使するような行為は、日本の刑法でも、「外患罪」ということで規定されています。刑罰は死刑のみという凄い犯罪なのです。この外患罪は、刑法ができてから百数十年たっていますが、まだ一度も使われていません。さらに言いますと、外患罪では未遂犯だけが規定されています。既遂になるときには外国に占領されていますので、処罰できないという理由なのだそうです。「勝てば官軍」で良いのかよと、思わず突っ込みを入れたくなるのでした。

 

弁護士より一言

今回のニュースレターを読んだ妻から、こんな残酷な話は読みたくないと苦情がきました。でも、眠れないときに妻は、私のギリシャ神話の話しを聞くのが好きです。タンタロス一族の悲劇など定番です。「そんな気持ち悪い話を聞いたらよけい眠れないから!」と文句を言うんですが、しばらくするとスースーと気持ちの良さそうな寝息が聞こえてくるのです。。。

 (2022年4月1日 大山滋郎)

 

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