弁護士のたとえ話

第317号 弁護士のたとえ話

先日、牛丼の吉野家の取締役が、大学のマーケティングの授業で用いた「たとえ話」が大問題となりました。

まずは吉野家の味に馴染んでもらう為のマーケティング戦略のたとえ話で、「田舎から来た生娘をシャブ漬けにする」なんて話したそうです。

このたとえ話は、本当に酷い。ただ思い起こしてみると、こういう趣味の悪いたとえ話をする人って、学校の先生なんかにもよくいたと記憶しています。強烈なたとえ話で、少しでも学生の記憶に残そうという、ある意味サービス精神旺盛な人なのだと思うのです。酷いたとえ話であることは確かですが、本当に「生娘シャブ漬け計画」をしていたかのように非難するのは、さすがに可哀そうに感じます。わ、私も受けを狙って、おかしなたとえ話をすることがあるので、十分気を付けます。

 

たとえ話の名人と言われているのは、新約聖書のキリストですね。本当に多くのたとえ話をしています。法律に関係する話では、神を恐れない、傲慢な裁判官のたとえなんか有名です。「求めよ。さらば与えられん」という、キリストが大好きな教えのたとえ話です。ある母親が、自分の子供のために有利な判断をするように、その裁判官にしつこく頼み込むという話です。あんまりしつこいので、裁判官も根負けして、母親の要求を受け入れたという話ですね。

今、こんなたとえ話をしたら、「うるさいからといって、判断を左右するなんて、裁判官に対する侮辱だ!」と怒られそうです。判決を出す段階まで行くなら確かにその通りです。しかし、大多数の事件は、判決まで行かないで、和解で終わります。そして和解の場合、しつこくゴネルと、それなりに良いことがあるのも事実です。相当数の裁判官が、判決を書かずに、和解で事件を終わらせようとします。そうした中で、片方の当事者がしつこく「求め」る一方、もう片方の人が物分かりが良いと、物分かりの良い人に泣いてもらう形で事件を終了させてしまおうとすることはよくあるのです。聖書の母親の様に、しつこく裁判官に「求め」ることは、少しでも顧客に有利になるよう活動するプロの弁護士として、必要なことだと思うのです。(少し恥ずかしい気もしますけど。。。) 

 

聖書に戻りますと、ブドウ農園で働く労働者のたとえ話も有名です。農園主が早朝、仕事がない人にブドウ園での働き口を与えます。その後、夕方に仕事にあぶれている人がいたので、同じように農園での仕事を与えます。最後に給料を払うときに、朝から働いた人も、夕方に来た人にも同じ金額を支払ったのですね。当然、朝から働いた人は不公平だと文句を言います。

それに対してブドウ農園主は、「私は約束しただけは支払ったのだから、文句を言われる筋合いはない」と突っぱねたという話です。子供の頃から神を信じていた人も、死ぬ間際に神を信じた人でも、同じように天国に行けるという話だそうです。ご丁寧にイエス様は、「先の者が後になり、後の者が先になる」なんて、「名言」まで残してくれているのです。

しかし、宗教家ならぬ凡人としては、なんか不公平に思えますよね。マンションを購入するときに、最後の方になって安く購入する人が出たら不公平ではないかといった問題は、現在でも頻繁に生じています。また、契約書の中に、「最恵待遇条項」というのを入れて、後から契約した人が有利になるのを防ぐようにしている場合もあります。イエス様には怒られそうですが、凡人を対象とする法律の世界ではやむを得ないのでしょう。弁護士の世界でも、若手弁護士の方が、新しい法律や判例をしっかりと理解しているので、優秀だなんてことはよくあります。まさに後から来た人が先になるのです。

 

私なんかも、色々と若手を指導しているつもりでいても、実際には指導が何の役にも立っていなかったと気づくことがあります。たとえるなら、「手を離しても、天が落ちてこないことに気付いたアトラスの気持ち」です。(な、なんのこっちゃ。。。)

 

弁護士より一言

キリストは、天国についてのたとえ話がお好きなようです。「天国は高級な真珠のようなものである。それを見つけた人は、全財産を使っても手に入れようとする」みたいな、たとえ話がありました。これを妻に話したところ、「そんなの欲しくない。だってもう持ってるもん。」ほっ!キリストのたとえ話が、高級ダイヤやサファイヤでなくて本当に良かったと思ったのでした。                                                                                                      (2022年5月16日 大山滋郎)

 

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