第三の弁護士

第323号 第三の弁護士

「第三の男」と言えば、映画の古典です。

映画を見てない人でも、アントン・カラスのチターによるテーマ曲は聞いたことがあるはずです。舞台は第2次世界戦後のウィーンです。親友の「事故死」の現場に居たという「第三の男」の謎を追う話です。

ところで、映画の題名の「第三」ですが、「当事者ではないが、強い利害関係を持っている」ということです。この映画の場合は、「事故死」の加害者と被害者が当事者です。しかし、その場にいた怪しい人物で、事件に関係ありそうだということで、「第三の男」となるわけです。こういった感じの「第三」というのは、よく使われています。

 

例えば、戦後日本で「第三国」なんて言葉がありました。戦争における当事国は、戦勝国(中国)と戦敗国(日本)です。しかし、日本に「合法的」に併合され、その後「独立」した韓国は、どちらにもあたらない。それでいて、戦後処理に非常に大きい利害関係を有していることから「第三国」という位置付けになるのです。こういう意味での「第三」は、法律でもよく出てきます。映画の話に戻ります。第三の男の正体は、事故死したと思われていた親友だということが分かります。この人は、低品質の薬を販売することで、多くの市民の命を奪っていたのです。この親友と対決する、大観覧車の場面がこの映画のハイライトです。観覧車の上から見下ろすと、人間は小さな点としか見えない。そんな人間たちを指差して、「あの点の一つが永遠に止まる度に、所得税抜きで2万ポンドやる、と言われたら断るかね?」なんて怖い質問をします。わ、私ならもちろん、ノーと言います。ほ、本当です。。。 

でも、こういう形の、自分が直接手を下さないが、害悪を広める犯罪というのは、現代でもあるんですね。「第三の男」と同じように、薬物犯罪なんかまさにそうです。覚せい剤の密輸では、直接誰かを害するわけではないのですが、それによって多くの「点」が消えることになります。従いまして、こういう犯罪は非常に厳しく罰せられます。ところが、「頼まれたから自分の荷物に入れて持ってきました」なんて人が相当数いるんですね。映画の悪役の様に「所得税抜きで2万ポンド」どころか、本当に小遣い銭でこういうことをする。本当に「知らなかったなんてありえるのか?」ということで、裁判でも争われているのです。

 

考えてみますと、自分の行為によって「点」が困ってもやむを得ないというのは、経済の世界では当たり前のように行われています。まさに「弱肉強食」の世界です。私が子供のころには、多くの公害事件が起きていました。企業が、自社の活動との因果関係を、うすうす認識していながら、「利益」のために止めなかった事例も沢山あります。また、大規模ショッピングモールの進出により、地域の小規模商店が潰れていくなんてことも、沢山あったのです。

こういう事態に対して、多くの弁護士は、消えていく「点」を守るために活動しました。大規模ショッピングモールが地域に進出してくるのを規制する法律など作ると共に、進出反対運動等にも力を入れていました。これはこれで、善い行いだと思う一方、映画の中で悪役が、大体こんなことを言っていたのを思い出してしまうのです。「弱肉強食の争いの中で、偉大なものが生まれる」「一方、長い平和が産み出したものは鳩時計だけだ!」 弁護士がしてきた、弱い小売店舗という「点」を法的に守り、地域の平和を守った功績を否定することはできません。

しかし、大規模商業施設とのビジネス上の「弱肉強食」の争いの中から、セブンイレブンのようなコンビニという新しいビジネスが生まれてきたのも事実です。「法的保護」による「平和」だけを求めていたら、こんな新ビジネスは生まれてこなかったと思う一方、それによりさらに「弱肉強食」が強化された気もします。「弱肉強食」と「法的保護」だけではない、第三の道を見つけることができればと思うのです。

 

弁護士より一言

うちの庭には、猫とハクビシンが良く遊びに来ます。先日、見たことのない第三の動物が来たので、思わず写真を撮ってしまいました。狂暴そうな動物に見えたんですが、実は病気で毛の抜けた、可哀そうなタヌキだと判明しました。凶暴だなんて考えて悪かったと反省していたら、娘からも注意されました。「パパ、タヌキを盗撮したらダメでしょう!」 そ、そこですか。。。                                                                                                         (2022年8月16日 大山滋郎)

 

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