弁護士の補助金詐欺

第347号 弁護士の補助金詐欺

コロナの中、苦しんでいる企業のために、多くの補助金が出されました。従業員にして貰う仕事がない場合でも、給与を支払った企業には、国が補助金を出す制度なんて有名です。

ところが、こういう補助金があると、不正に貰おうという人が必ず出て来るんですね。実際は従業員が勤務していたのにも関わらす、「休業中の給与を支払った」と嘘の申告をして、補助金をだまし取った企業が多数摘発されています。もちろん、不正受給した企業が悪いんですが、人間は弱いものです。後から厳しく取り締まるなら、最初の段階で、もっと明確に警告すべきだったのではなんてことも考えてしまいます。しかし考えてみますと、こういった補助金詐欺は、あらゆる国で昔からあったように思います。

一番有名なのは、ゴーゴリの「死せる魂」でしょう。私の一番好きなロシア文学です。ロシアで、辺境の地を、農奴を連れて開拓したら補助金を貰えるという制度ができます。そこで主人公が、すでに死んでいるにもかかわらず、戸籍は残っている農奴を譲り受け、辺境開拓をしたことにして、補助金をだまし取ろうとする話です。詐欺師の主人公が、「死んだ農奴を売って下さい」と頼みに行くんですが、お願いされた地方荘園主たちが皆ぶっ飛んでいる。理想主義を掲げながらも何一つ行動しないマニーロフ、野蛮人だがやり手のサバケビッチ、少し頭が弱いが欲深くて、「死んだ農奴をもっと高く買ってくれる人がるかもしれないから。。。」と売り渋るコロボチカと、どの人たちも皆面白い! でも、死んだ人(死せる魂)を生きているものとして詐欺を行う手口、現代日本でもあるんです。一番単純なのは、年金詐欺ですね。年金受給者だった親が死んだことを隠して、そのまま年金を貰い続けていたなんて事件、たまにニュースになります。これを発展?させれば、多数の高齢者の養子になって、事実上年金を貰うなんて言う荒業もできるかもしれません。

実際問題として、多くの子供を名目上養子にして、子育てのための支援金をだまし取ったなんて事件もありました。こういった補助金詐欺で有名なのは、破産した会社の従業員に対する補助金です。給与が貰えないまま会社が破産した場合、従業員を守るために行政から給与の8割ほどのお金が出されます。この制度を悪用して、潰れる会社を見つけては、ホームレスの人などと高額の給与の労働契約を結ぶ訳です。そして、行政から得たお金から、ホームレスの人にアルバイト料を支払うみたいなスキームです。これはかなり行われていて、私も何件か対応したことがあります。補助金詐欺ではないですが、日本の商社の、発展途上国に対するビジネスが問題にされたことがありました。日本は多くの途上国に様々な補助を行っています。

ただ、それを申請するのはとても面倒なんです。商社がそれらの手続きを行ってあげた、その代わりにそのプロジェクトを、通常より高い価格で受注するというビジネスです。「申請手続き」の対価を、プロジェクトの対価に上乗せするということです。でもこのスキーム、日本のマスコミにかなり叩かれました。「不当に高いプロジェクトの対価を、商社が騙し取った」みたいに言われていたはずです。さすがにこれは、商社に対し、気の毒に思えたのです。

こんな大きな話ではないのですが、構造的に似たような事案は、うちの事務所でも扱っています。台風などで家に損害が生じた場合、その復旧には補助金が出ます。でもそういうことを知らない人が多数派ですし、そもそも申請手続きがかなり大変です。そこで、災害の生じた家を巡り、補助金について説明し、無償で申請手続きまで行います。その代り、復旧工事は相場より高い金額で、自社で受けるというスキームです。

しかしこれに対して、「相場ではもっと安く工事できるはず。騙された」と問題提起してくる人がいて、法律問題になるのです。弁護士としても、対応が難しい案件となるのでした。

 

弁護士より一言

家族に詐欺事件の話をしていたら、娘から「津田塾大学事件を知っている?」と聞かれました。父親が女装して受験したという「受験詐欺?」の事件だそうです。「よくそんなことしようと思ったな」と感心しました。しかし妻には、「その手があったか! ぱぱ、今から頑張って!」と言われてしまいました。でも、不正かどうか以前に、今の私の実力なら、どこにも合格できません。ううう。。。                                                                                (2023年8月16日 大山滋郎)

 

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