緋色弁護士の研究

第349号 緋色弁護士の研究

「緋色の研究」は、名探偵シャーロック・ホームズの記念すべき第1作です。巻を重ねるごとに、ホームズはまともな人になりますが、第1作では、薬物中毒で推理以外には興味のない、完全に変な人です。ルームシェアの相手を探していて、紹介された退役軍医のワトソンに会って、最初に言った言葉が、「アフガニスタンからお戻りですね?」でした。「中間の推理をことごとく消し去って、ただ出発点と結論だけを示すと、相手をびっくりさせる効果は十分だ」なんてホームズ先生は言っていました。まずは初対面からガツンと行ったんでしょうけど、私がワトソンなら驚くと共に、「こんな変な人とルームシェアして良いのだろうか?」と心配になりそうです。ただ、軍医であることに加えて、負傷状態など見れば、恐らく「アフガニスタン帰り」なのは、ホームズでなくとも推理できそうな気はしちゃいます。当時はイギリスがアフガニスタンに出兵していました。その後、フランス、ソ連、アメリカと、アフガンに出兵しては、火傷して手を引いていますから、人間というのはあまり進歩しないものかなと感じてしまうのです。

「緋色の研究」という題名は、次の有名なセリフから来ています。「人生という無色の糸の束には、殺人という緋色の糸が一本混じっている」のだそうです。ほ、本当ですか? 私も弁護士稼業をかなり長くしていますが、殺人未遂はともかく、未だに殺人事件の弁護はしたことないんです。世の中に、そんなに沢山「緋色の糸」があったら怖いです。ホームズ大先生は続けます。「探偵の仕事は、その糸の束を解きほぐし、緋色の糸を引き抜いて、糸の端から端まで白日のもとにさらすことなんだ」 なんか、とてもカッコいいと感心する一方、よく考えてみると、「探偵の仕事は、殺人事件の犯人を見つけること」と言っているだけのような気もしちゃいます。このニュースレターを読んでいる人の中にも、ホームズのファンが沢山いそうなので心配ですが、私は子供のころからホームズ先生のお言葉には、納得できませんでした。ホームズの推理方法を述べた次の言葉は、とても有名です。「不可能なことを消去していくと、いかに奇妙に見えても、最後に残ったものが真実である」 でもこれ、50年前に読んだときから、「これはおかしい」と思ったのです。だって、いろいろな可能性を検討していたけれど、どれをとっても納得できなかったんです。そういう中で、何をもって「不可能」と断じて、何をもって最後に残った「奇妙な事実」とするのか、その基準が分からないというのが、子供のころの私の疑問だったのです。その頃は、「そのうち分かるようになるだろう」と、軽く考えていましたが、還暦を迎えてみても、その違いが分かりません。これって、検討するときの、順番の問題としか思えないのです。A、B、Cと三つの可能性があるが、どれを取ってもあり得無そうという状況下での問題です。最初にAとBを「不可能」だと結論付けたら、Cについては「どんなに奇妙でも真実」と認定できます。でも、BとCを最初に不可能としたら、奇妙な真実はAになるでしょう。実際問題、多くの推理小説を映画化などするときに、「犯人は原作と違います」なんていうのがありました。そういうことが可能になるくらい、推理小説の「真実」はいい加減なんです。

ただ、考えてみますと、裁判による事実認定も、これと似たようなことはあります。限られた証拠での事実認定というのは本当に難しい。どちらの言い分が正しいのか、判断が付かないことはよくあります。司法修習のときに裁判官から、「双方ともおかしなところがあるので、どちらを勝たせて良いのか分からない」なんて聞いたこともありました。こういうときの判決は、負かす方の主張を「それは不可能であり得ない」と退けてから、勝たす方の主張は大した理由も付けずに「どんなに奇妙でも、これが正しいとしか考えらえない」といったものになります。

 

弁護士より一言

ホームズ先生、こんなことも言っていました。「腹が減っているときの方が、頭の回転が良くなる。僕は頭脳で、残りの部分はただのおまけだ」 か、カッコいい! 私が減量始めたころ、やはり減量始めた息子が言ってました。「お腹がすくと、ご飯のことしか考えられなくなるよね!」 た、確かに。。。 親子揃って、名探偵にはなれないなと、思い知らされたのでした。                                                                                                         (2023年9月16日 大山滋郎)

 

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