弁護士のマルハラ

第376号 弁護士のマルハラ

先日、初めて「スシロー」に行きました。人気店だと知ってましたが、これまで行ったことが無かったのです。すごく衝撃を受けました。寿司が回っていない! 醤油皿がなくて、ネタの上に醤油を垂らす! ガリは無料で注文して届けてもらう!と、衝撃的な内容です。中でも一番驚いたのは、寿司にワサビがのっていないことでした。ワサビが欲しい人は無料のワサビを注文しないといけません。ワサビ抜きの寿司なんかあり得ないと考えていた私には、凄い衝撃でした。しかし考えてみますと、刺身の場合は、ワサビは別に付いてます。自分の好みに合わせて付ければ良いんですね。なぜ寿司は刺身と違うのかよくわかりません。もともと寿司にワサビを付けていたのは、魚の生臭さを消すとか、傷むのを抑えるという意味があったはずです。冷凍技術が発展した現在では、そういう意味でのワサビは必要ないように思えます。

ということで話は変わりますが、最近「マルハラ」というハラスメントがあるそうです。今の若者は、文章の最後に「。」をつけない。それだけではなく、文末に「。」が付いていると威圧感を感じる。そこで「マルハラ」というわけです。私みたいな年代の人は、「なんやそれ?」と思うしかないですね。私とほぼ同世代の、歌人の俵万智先生は、「。」が要らないという見解について、歌で対抗されていました。「優しさにひとつ気がつく ×でなく○で必ず終わる日本語」 お見事! センテンスの最後に「。」がないと落ち着かない私のような人間の、琴線に触れる歌でした。その一方、何だって日本語のセンテンスの最後に「。」を付けないといけないのかと考えてしまったのです。もともと明治以前の日本語には、「。」も「、」も無かったんです。活版印刷が普及する中で、印刷工の人に分かりやすくするために、文章の区切りに「、」を、最後に「。」を付けたり、段落の最初は1文字下げるみたいなルールができたということです。紫式部も清少納言も、センテンスの最後に「。」なんか付けてない。「そんなもの無くても、文章を読めばどこで切れるかなんか分かるだろう」ということなんでしょう。野坂昭如先生ならずとも、もっともな考えと思えてしまいます。今の若者がラインなどで使う文章は、本当に短いものを、ワンセンテンスだけ送る形です。それなら、そもそも「。」なんて必要ないでしょう。こうなってきますと問題点は、マルハラではなくて、そもそも必要ない「。」に何故こだわるのかという点に思えてきちゃいました。なんとなく昔から続いている「規則」には、そういうもの沢山ありそうです。伝統として、ローストビーフをオーブンに入れるときに肉の両端を切るという話がありました。この「伝統」は、以前はオーブンのサイズが小さかったから両端を切っていたにすぎなかったという話です。蕎麦につゆを付けるときは、少しだけにしろという規則は、昔のつゆはほぼ生醤油だったので。つけすぎると辛くなるというだけの理由だそうです。塩で蕎麦を食べるときに、付け過ぎるなというだけの「規則」だったんですね。「そんなこと、わざわざ言うなよ!」と、突っ込みたくなります。

以前も書きましたが、法律の世界にもこういった「規則」はいろいろとあります。刑事事件の量刑は偶数月にするみたいな規則です。そんな「規則」があるから、懲役8月か10月かで悩むことになります。「9月にしろよ!」と、一般人はアドバイスしたくなるでしょう。困ったことに、こういう合理性の無い日本独自の「規則」は沢山あります。寿司も日本発祥のSUSHIとして、各国で独自の発展を見せています。当然SUSHIにはワサビは必要ない。

俵万智先生なら、「侘び寂びにひとつ気が付くSUSHIでなくワサビをつける寿司の味わい」なんて詠むかもしれません。でも私は、本当に寿司にはワサビが必要なのか考えたいと思うのでした。

 

弁護士より一言

ご飯とみそ汁、どちらが右か左かなんて、少し前にネットで議論されていました。間違えたら爆発するといったことなら私も真剣に覚えるんですが、理屈としてはどちらでも良さそうです。そう考えると、どうでもよい「規則」を体が覚えるのが「教養」なのかもしれません。「パパはそれ以前の問題」と妻に言われていますが。。。

                                                                                                                    (2024年11月1日 文責:大山 滋郎)

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