影響力の武器
影響力の武器
チャルディーニという心理学者の書いた、「影響力の武器」という本があります。人は、どういう場合に他人から影響を受けるのかについて書かれた本です。
学者先生の書いた本と言いますと、机上の空論じゃないかと思ってしまいますよね。しかし、チャルディーニ先生は、やり手のセールスマンのような人(人に影響力を与えて、モノを買わせるプロの人達)から多く学んでいきます。その結果、チャルディーニ先生は多くの人が、他人から強い影響を受けながら、その事に気づいてもいないということを、多くの実例と共に示して行くわけです。
「影響力の武器」の中で、一番有名なのが「返報性」という考えです。人は他人から何かを無償でしてもらったら、受けた恩義は、必ず返さないといけないと思うようにできているというのです。人間のこういう性質は、文化人類学の立場からも、広く世界的に認められているということなんですね。
悪徳商法の場合、この返報性は多用されます。アムウェイ商法なんて有名です。まずはバックに入れた商品を無料でお客さんに渡します。自由に使ってくださいと言うわけです。そうしますと、その後お客さんは、面白いように商品を購入するそうです。デパ地下などで、無料で試食させるのも「返報性」の原則ですね。試食した以上は、買わないと気が済まなくなる!
この辺のテクニックは、弁護士も普通に使いますね。たとえば、刑事事件の被害者との示談交渉など、私は高級ホテルで設定します。高いコーヒーや、ケーキ代など、当方で持つわけです。「返報性」の法則で、少しでもこちらの要望をかなえてくれないかと期待しちゃうのです。
返報性の応用問題で、「まず過大な要求をして、その後譲歩する」なんていうのもあります。例えば、大学生に対して、ボランティアで、問題児童を1日遊園地につれて行って欲しいとお願いすると、ほとんどの人は断わるそうです。ところが、最初に、問題児童を2年間継続的に面倒見てもらえないかとお願いします。それを断られた後に、1日だけ遊園地をお願いすると、多くの人が快く応じてくれます。最初の頼みを断ったことが、心に負担として残っているので、それより小さい頼みなら聞いてあげようと思うわけです。
この辺のテクニックも、多くの弁護士が使っています。交渉のときに、まずは非常に厳しい条件をだします。相手は当然断わりますが、そこをスタート地点にして、自分の方が譲歩しているんだという立場で臨むわけです。当方の「譲歩」に対する「返報性」を期待するのです。
こういう「返報性」の法則など、多くの人は気が付きもしないうちに、事実上他人から「影響」受けているのです。返報性だなんて高度の話しでなくても、人は本当に簡単に影響を受けます。チャルディーニ先生は、自動車販売の例をあげていました。自動車だけの写真を見た場合と、自動車の隣に美女がいる写真を見た場合とでは、後者の方が圧倒的に自動車自体の価値を高く評価するんだそうです。しかし、こういう人達は、美女のせいで自分が車を高く評価しているという事実自体、気が付きもしない。事務所のホームページでも、美女に登場して貰おう思ったのでした!(おいおい。)
弁護士より一言
私なんか、デパ地下などで試食品を貰っちゃうと、なんかもう悪くって、買わずにははいられないわけです。これなんか、まさに返報性のルールです。ところが妻は、試食品が出されると「どうも有り難う。」なんて言って、平気で食べちゃうんです。それでいて、「もう少しいろいろ見てみます。」なんてニッコリ笑って、そのままスタスタ行っちゃうんです。
「試食しただけで買わないなんて、悪くないの?」と妻に聞いたところ、「口に合わないもの買ってどうするの。何のための試食なの?」と言われました。
お、鬼だ! チャルディーニ先生に言いつけてやります!
(2014年9月16日 第133号)